府内自治体の公契約に関する実態調査まとめ

2024年府内自治体の公契約に関する実態調査報告

 政府・総務省は地方行政サービス改革について2015年8月に「地方行政サービス改革の推進に関する留意事項について」とする総務大臣は発出し、地方財政が依然として厳しい状況にあるなかで、効率的・効果的に行政サービスを提供する観点から、民間委託やクラウド化などの業務改革の推進に努めるよう、各地方公共団体に要請しました。それを受けて全国の自治体では、市民の暮らしを支える行政サービスの業務を民間事業者と契約して行うケースが増大しました。

 競争入札などで契約単価が下がり、そのしわ寄せが委託された民間業者などで働く労働者の労働条件の下がり、熟練された労働者が流出することによって、住民が満足できる住民サービスが出来なくなります。そうしたことにより私たちの生活への影響が危惧されます。(利用者の死亡事故が発生したケースもあります)

 こうした状況をかえるために、公共工事品質の確保や良質な住民サービスの確保、地元企業の育成、公正な競争の促進などを目的として、全国 の32 自治体で「賃金下限規制」がある公契約条例が制定されています(理念条例56自治体)。しかし、大阪府内では「賃金下限規制」を含んだ公契約条例を制定した自治体はありません(理念条例もありません)。

 大阪労連では大阪府内でも公契約条例の制定をめざして、毎年大阪府下すべての 44 自治体へ「公契約に関するアンケート」にとりくみ、今年もすべての自治体から回答がありました。

(1)公共サービス基本法の具体化について

*具体化している自治体からの回答(28自治体)

大阪市、吹田市、茨木市、高槻市、島本町、豊中市、箕面市、池田市、門真市、守口市、枚方市、寝屋川市、大東市、交野市、柏原市、松原市、羽曳野市、藤井寺市、大阪狭山市、河南町、太子町、堺市、泉大津市、貝塚市、和泉市、泉南市、田尻町、岬町

*「具体化なし」や「特になし」などと回答した自治体(16自治体)

大阪府、摂津市、豊能町、東大阪市、八尾市、富田林市、河内長野市、千早赤阪村、太子町、高石市、岸和田市、阪南市、忠岡町、熊取町、能勢町、四条畷市

*「公共サービス基本法」は努力義務になっているため、具体化していない自治体があります。法律を変えて努力義務ではなく、義務化して公共サービス等で働く労働者が「安心・安全」で従事できる環境づくりが求められます。

【参考】公共サービス基本法第11条には「国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする」となっています。(2009年7月施行)

(2)公契約条例についての検討の有無

*検討した自治体と検討した内容(8自治体)

大阪府、茨木市、池田市、河内長野市、泉佐野市、泉南市、熊取町、大東市

*検討していない自治体(36自治体)

大阪市 吹田市 摂津市 高槻市 島本町 豊中市 箕面市 豊能町 能勢町 門真市 守口市 四条畷市 枚方市 寝屋川市 交野市 東大阪市 八尾市 柏原市 松原市 羽曳野市 藤井寺市 富田林市 大阪狭山市河南町 太子町 千早赤阪村 堺市 高石市 泉大津市 岸和田市 貝塚市 和泉市 阪南市 忠岡町 田尻町 岬町

*検討しない主な理由

・国が一律に検討・制定すべき事項と考えるため。
・制度の履行確認の作業負担が大きいことや契約金額の高止など。
・請負契約書に労働基準法等の法令を遵守することを明記しているため。
・既存の法律との整合性の問題があり困難であるため。

*全国では「賃金下限規制」がある公契約条例を制定している自治体は32自治体、理念条例を制定しる自治体は56自治体あります。しかし、大阪府内ではありません。
 検討している自治体は8自治体ありますが、検討内容を見てみると、検討しない自治体の検討しない理由と大差がありません。引き続き、大阪府内での「賃金下限規制」がある公契約条例制定に向けた運動が必要です。

(3)アウトソーシングから直営にもどした業務がある自治体

自治体 部署 理由
枚方市 市民会館運営業務 新ホール建設により、既存施設の存続期間 2年間 を直営とした。
東大阪市 鴻池新田会所・東大阪市立埋蔵文化財センター・東大阪市立郷土博物館 休館のため
八尾市 ①八尾市リサイクルセンター学習プラザ②八尾市立埋蔵文化調査センター ①施設の利用状況等を踏まえ、管理運営方法のあり方見直しを行ったため②施設の利用状況等を踏まえ、一部業務の直営化や他の公共施設へ機能の集約を行っため(当該施設の公の施設としての位置づけを廃止
松原市 松原市少年自然の家 施設のあり方検討施設であるため

(4)民間委託・指定管理の労働法違反への対応や雇用継続と労働条件の継続の依頼の有無

①実際の就労で労働法制の違反があった場合の対処について(表の数字は自治体数です)
 *尚、複数回答している自治体もあります。

  民間委託 指定管理 公共工事
委託解除 3 6 4
入札参加停止 10 6 14
厳重注意 6 6 8
改善指導 13 22 15
業者に任せる 7 2 4

ア.委託解除する自治体

*民間委託・・・大阪府、松原市、阪南市
*指定管理・・・門真市、松原市、大阪狭山市、和泉市、阪南市、豊中市
*公共工事・・・交野市、松原市、和泉市、阪南市

イ.入札資格停止する自治体

*民間委託・・・摂津市、茨木市、四条畷市、松原市、大阪狭山市、河南町、堺市、阪南市、忠岡町、豊中市

*指定管理・・・四条畷市、河南町、堺市、阪南市、忠岡町、豊中市

*公共工事・・・吹田市、摂津市、茨木市、四条畷市、松原市、藤井寺市、大阪狭山市、河南町、堺市、和泉市、阪南市、忠岡町、豊中市、泉南市

ウ.厳重注意する自治体

*民間委託・・・島本町、池田市、交野市、松原市、泉大津市、阪南市

*指定管理・・・島本町、豊能町、門真市、交野市、泉大津市、阪南市

*公共工事・・・島本町、池田市、豊能町、交野市、松原市、河内長野市、泉大津市、阪南市

エ.改善指導する自治体

*民間委託・・・能勢町、門真市、守口市、交野市、松原市、太子町、泉大津市、岸和田市、阪南市、田尻町、熊取町、岬町、柏原市

*指定管理・・・大阪市、吹田市、摂津市、茨木市、箕面市、池田市、能勢町、門真市、寝屋川市、大東市、交野市、羽曳野市、藤井寺市、河内長野市、泉大津市、和泉市、阪南市、田尻町、熊取町、岬町、柏原市、泉南市

*公共工事・・・能勢町、門真市、守口市、寝屋川市、交野市、松原市、太子町、泉大津市、岸和田市、泉佐野市、阪南市、田尻町、熊取町、岬町、柏原市

オ.業者にませる自治体

*民間委託・・・豊能町、交野市、松原市、富田林市、河内長野市、千早赤阪村、泉大津市

*指定管理・・・富田林市、千早赤阪村

*公共工事・・・大東市、交野市、富田林市、千早赤阪村

②入札などで業者が変更になる場合の労働者の雇用継続について(表の数字は自治体数です)
 尚、複数回答している自治体もあります。

  民間委託 指定管理 公共工事
継続を依頼 2 2 0
一部依頼 2 11 0
依頼しない 25 25 30

ア、継続を依頼している自治体

*民間委託・・・熊取町、豊中市
*指定管理・・・門真市、熊取町
*公共工事・・・なし

イ、一部依頼している自治体

*民間委託・・・茨木市、河内長野市

*指定管理・・・大阪府、吹田市、摂津市、池田市、豊能町、門真市、大東市、交野市、藤井寺市、泉大津市、泉南市

*公共工事・・・なし

ウ、依頼していない自治体

*民間委託・・・大阪府、大阪市、摂津市、島本町、池田市、豊能町、能勢町、門真市、守口市、四条畷市、交野市、松原市、富田林市、大阪狭山市、河南町、太子町、千早赤阪村、泉大津市、岸和田市、貝塚市、阪南市、忠岡町、田尻町、熊取町、岬町

*指定管理・・・大阪市、茨木市、島本町、箕面市、能勢町、門真市、四条畷市、寝屋川市、交野市、松原市、羽曳野市、富田林市、河内長野市、大阪狭山市、河南町、千早赤阪村、泉大津市、貝塚市、和泉市、阪南市、忠岡町、田尻町、熊取町、岬町、豊中市

*公共工事・・・大阪府、大阪市、摂津市、島本町、池田市、豊能町、能勢町、門真市、守口市、四条畷市、寝屋川市、大東市、交野市、松原市、藤井寺市、富田林市、河内長野市、大阪狭山市、河南町、太子町、千早赤阪村、泉大津市、貝塚市、泉佐野市、和泉市、阪南市、忠岡町、田尻町、岬町、泉南市

違法行為があった場合への対応をしている自治体は多いですが、雇用継続を依頼している自治体がほとんどない状態で、そのため、労働条件の引き継ぎを依頼している自治体はもっと少なくなっています。また、公共サービスで働く民間労働者の労働調査はほとんどの自治体で実施されていない状況です。これではたして「安心・安全」で利用出来ると言える住民サービスを行うことが出来るでしょうか。
 私たちが、安心・安全を受けられる住民サービスのためにも「賃金下限規制」がある公契約条例制定に向けた運動が必要だと感じられる調査結果となっています。
【参考】総務省の見解では「公共サービスを民間企業に委託もしくは指定管理する場合、そこで働く労働者の雇用継続を、入札参加条件に入れることは違法でない」としています。

(5)公共工事に対しての労働条件への関わり方

①労務単価を提示している自治体(17自治体)

大阪府、大阪市、摂津市(一部)、茨木市、高槻市、豊中市、門真市、枚方市、大東市、柏原市、東大阪市(一部)、藤井寺市(一部)、富田林市、堺市、泉大津市、和泉市、忠岡町

②労務単価を提示していない自治体(26自治体)

吹田市、島本町、箕面市、池田市、豊能町、能勢町、守口市、四条畷市、寝屋川市、交野市、八尾市、松原市、羽曳野市、河内長野市、大阪狭山市、河南町、千早赤阪村、高石市、岸和田市、貝塚市、泉佐野市、泉南市、阪南市、田尻町、熊取町、太子町

③「公共工事の人件費の根拠」について(複数回答している自治体もあります)

ア、前年実績

豊能町、貝塚市

イ.設計労務単価

大阪市、摂津市、島本町、豊中市、池田市、門真市、四条畷市、寝屋川市、大東市、交野市、東大阪市、柏原市、松原市、藤井寺市、富田林市、太子町、河内長野市、大阪狭山市、河南町、千早赤阪村、高石市、泉大津市、和泉市、阪南市、忠岡町、田尻町、熊取町、岬町

ウ、その他

東大阪市、阪南市(見積等)

エ、回答が出来ない理由がある自治体(カッコの中は回答出来ない理由)

・高槻市(設問内容が公共工事は対象外であるため)
・枚方市(集約困難)
・八尾市(市として回答が出来ない)
・堺市(回答が出来ない)
・岸和田市(設問は公共工事あてはまらない)
・泉佐野市(施設や内容により対応が様々となる)

カ、無回答の自治体

大阪府、吹田市、茨木市、箕面市、能勢町、守口市、羽曳野市、泉南市

*公共工事において、工事費の積算に欠かせない「公共工事設計労務単価」は建設労働者の賃金単価を表す数字で、国土交通省が毎年実施する公共事業労務費調査によって都道府県ごとに決定されています。アンケート結果では26自治体が労務単価を示していません。また、人件費の根拠を設計労務単価にしているのは23自治体ありますが、回答出来ないもしくは無回答は17自治体あります。すべての自治体で設計労務単価を示して、人件費の根拠を最低限、設計労務単価にすべきです。

(6)入札を行うとき「総合評価方式」を導入している自治体(自治体)

*カッコの中は「入札価格」が評価全体の中に占める割合

大阪府(50%)、大阪市(40%)、吹田市(77%)、茨木市(50%)、高槻市(50%~60%)門真市(未集計)、豊中市(委託50%、工事(市内)10% 工事30%(市外))、池田市(未集計)箕面市(33%)、能勢町(案件による)、寝屋川市(案件によって異なる)東大阪市(一律には示せない)、交野市(案件によって異なる)、枚方市(50%)、河内長野市(50%)、富田林市(70%)、河南町(案件による)堺市(一律には示せない)、高石市(50%)、泉大津市(90,9%)、貝塚市(76.9%)、和泉市(90%)

 入札を行うときに総合評価方式を導入している自治体は大阪府下で25の自治体あり、ほとんどの自治体では入札価格が50%を超えており、なかには70%や90%としている自治体があります。これでは入札価格が低いところが落札してしまい、技術や地元貢献などがどうでもよくなってしまう可能性があります、総合評価では入札価格の点数を下げて、住民サービス向上のため、そこで働く労働者の労働条件の項目をいれるべきです。

(7)中小企業振興条例及び活性化の有無と特徴

①中小企業振興条例が制定されている自治体(18自治体)

大阪府、大阪市、吹田市、守口市、四条畷市、寝屋川市、大東市、交野市、東大阪市、八尾市、藤井寺市、羽曳野市、富田林市、岸和田市、貝塚市、泉大津市、和泉市、泉南市

*中小企業振興例はないが、自治体独自の支援の施策がある自治体(26自治体)

摂津市、茨木市、高槻市、島本町、豊中市、箕面市、池田市、豊能町、門真市、枚方市、松原市、柏原市、能勢町、大阪狭山市、河南町、太子町、千早赤阪村、堺市、高石市、阪南市、忠岡町、田尻町、熊取町、岬町河内長野市(令和6年9月条例制定予定)

②地域経済の活性化にむけた具体的施策

*具体的施策がある自治体・・・40自治体

大阪府、大阪市、吹田市、摂津市、茨木市、高槻市、豊中市、箕面市、池田市、豊能町、能勢町、門真市、守口市、四条畷市、枚方市、寝屋川市、大東市、交野市、東大阪市、八尾市、柏原市、松原市、羽曳野市、藤井寺市、河内長野市、大阪狭山市、河南町、太子町、堺市、高石市、泉大津市、岸和田市、貝塚市、泉佐野市、和泉市、泉南市、阪南市、忠岡町、熊取町、岬町

*特徴的な事例

・空き店舗活用促進などを対象に補助制度。

・企業立地促進制度。

・雇用創出の促進。

・公共事業の地元企業への発注。

・地場産業や新規事業への奨励金や融資制度。  等々

*具体的施策ない自治体・・・4自治体

島本町、富田林市、千早赤阪村、田尻町

 中小企業振興条例が制定されているのは18自治体、条例はないが自治体独自の施策があるのが24自治体、地域経済の活性化のむけた施策があるのが40自治体自治体、との調査結果になっています。大多数の自治体では、中小企業への支援で地域経済活性化にむけた施策がとれていることは評価すべきと思います。

2024年公契約の調査結果(2024年4月1日現在)

過去の調査結果

2023年公契約の調査結果(2023年4月1日現在)

2022年公契約の調査結果(2022年4月1日現在)

2021年公契約の調査結果

公契約にかかわる調査結果(2012年度)