4)労働災害、業務上の疾病、私傷病など |
@ 会社が労災申請手続きしてくれない
Q
金属加工製造業の会社に勤めていますが、先日、鉄材料運搬中、足に落下して足の
甲を骨折し、2週間休みました。
仕事中の災害なので会社に労災申請の手続をしてくれ るよう頼んでいますが、いまだに手続をしてくれません。
どうすればいいのでしょう か?
A
本来、労災申請の請求人は被災者本人です。
労災保険施行規則では「保険給付を受けるべきものが、事故のためみずから保険給付の申請その他の手続を行うことが困難である場合、事業主はその手続を行うことができるように助力しなければならない。」とし、また「事業主は、保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明しなければならない」(同23条)と定めているように、事業主は本人が申請するのを助けなければなりません。
したがって、事業主(総務部または人事部)に施行規則を守るよう申し出てください。それでも、助力してくれない時は、所轄の労働基準監督署の労災保険課に被災者本人や家族が代行して、直接、申請するようにしてください。
労災保険課で請求用紙に必要事項を記入して提出すると、担当事務官が事業主に出頭を命じて指導にあたります。
さらに、事業主は、労働災害で被災労働者が4日以上休業した時は、労働者死傷病報告義務として、遅滞なく、所轄労働基準監督所長に報告書を提出しなければなりません(労働安全衛生規則第97条・労働者私傷病報告)。
もし、報告を怠ったときは罰則として50万円以下の罰金が課せられます(同100条の3)。
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A 健康診断は会社の義務
Q
20数人の化学薬品を扱っている小企業で働いていますが、これまで1年に1 回程度定期健康診断を行っていましたが、最近はありません。
会社に聞いたので すが、忙しいし、みんな健康そうだから、やらないといいます。
化学薬品を扱っ ているし、だんだん年をとってくると自分の健康も不安です。
会社は健康診断は やらなくていいのですか?
A
労働安全衛生法では、雇用されている労働者に対して、「医師による健康診断を行わなければならない」(66条)と定めており、さらに、「事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない」(労働安全衛生規則第44条)と規定し、健診項目として @既往歴及び業務暦の調査 A自覚症状および他覚症状の有無 B身長、体重、視力、および聴力 C胸部X線及び喀痰 D血圧 E貧血 F肝機能 G血中脂質 H血統 I尿 J心電図検査など、11項目を定めています。
定期検診を実施しない場合、罰金として50万円以下、さらに両罰として事業主だけでなく会社も罰せられます。
また、化学薬品を取り扱っているとのことですが、有害物質(特定化学物質、有機溶剤など)を取り扱う業務に従事する労働者には、6ヶ月以内ごとに1回、定期に、医師による健康診断を行わなければなりません。
さらに、事業者に対して、「健康診断の結果の記録」(法66条の3)、「健康診断の結果についての医師等からの意見聴取」(法66条の4)、「健康診断実施後の措置」(法66の5)、「一般健康診断の結果の通知」(法66条の6)、などを義務づけています。 これらの健診結果において、事業者は、医師または歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設または設備の設置・整備その他適切な措置を講じなければなりません。
ぜひ、事業者に申し入れて下さい。それでも実施しない場合、所轄の労働基準監督署
へ「労働者の申告」(法97条)権を行使することです。
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B 下請現場でのケガ、どこに責任があるのか
Q
ある建築関係の職場で、塗装の下請で仕事をしていましたが、足場を踏み外し足を
骨折しました。
労災保険を受けようとしましたが、うちの親方が労災保険に入っていな いから、私傷病でやってくれといわれました。
仕事中の事故だし当然労災保険の適用を 受けられると思いますが・・・。
A
就業中の傷害ですから、労災保険の適用を受けられます。
原則として労働者を一 人でも使用する事業所は労災保険加入が義務づけられています。
したがって、親方が労 災保険料を払ってなくても、労働者は保険給付を受けることができます。また、このケ
ースのように建設現場の一定の場所でいくつかの仕事を下請させている場合には、そ
の事業を一つの事業とみなし、元請負人のみを事業主とみなし(労働保険徴収法第8条)、
下請労働者が被災した場合でも元請の労災保険が適用されることになります。
また、 元請の方に仕事をする上で安全配慮義務に違反する内容があれば、損害賠償を請求で
きます。
親方が労災保険に加入していないのは違反ですから、ただちに加入の手続きをさせ
ましょう。
また、あなたが一人親方で塗装などの仕事を請負っている場合には、労災保険の特別加入制度(任意加入)がありますから、その制度を利用することもできます。
ただし、保険料率(H21.4.1改訂)は、事業内容によってその月の収入の1000分の3(製造業・貴金属製造、金融など)から1000分の103(建設事業の水力発電施設など)まで異なりますので、よく調べておくことも必要です。 |
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C バイクでの通勤災害
Q
私は毎日バイクで通勤していますが、朝の通勤時に急いでいたせいもあって、
曲がり角で横転して負傷しました。私の不注意なのですが、労災適用はどうなるのでしょ
うか。
A
労働災害保険法(第7条1項、2項)では、通勤災害を「労働者の通勤による負傷、
疾病、障害、又は死亡」と規定し、「通勤」とは、「労働者が就業に関し住居と就業の場
所との間を、合理的な経路と方法により往復することをいい、業務の性質を有するも
のを除く」としています。
しかし、労働者が故意に重大な過失により、これらが原因と なった事故を生じさせ、負傷、疾病したときは、保険給付の全部または一部の支給を制 限することができる【「支給制限」・労災保険法第12条の2の2】と定めています。
また、その事故が交通事故などで第三者(本人以外および政府以外の人)が関わっ
て生じた場合、第三者行為災害といいます。
この場合は、労働基準監督署に「第三者行為災害届」を届ける必要があります。
あなたの場合、第三者が関わったものではありませんが、「私の不注意」が問題にな
りますが、通常のちょっとしたミスなら「重大な過失」にはあたりません。
従って、通勤途上災害としての療養給付は受けられます。通勤災害と業務上災害の補償給付の相違点は、通勤災害の場合は
@療養給付に関しては200円の負担が生じ
A業務上の休業補償給付にあたる休業給付が休業4日目から平均賃金の60% (労働福祉事業から20%、合わせて80%)が保険給付されます。
最初の3日間(待期期間)について、通勤災害に関して、災害の発生そのものに事業主責任がないことから支払いの義務はないとの判断もありますが、事業主に支払を請求しましょう。
Bさらに業務上災害と違って解雇制限【労基法第19条】の適用はありませんが、解雇そのものの民亊上の是非は別の問題です。
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D 帰宅途中飲んで交通事故、通勤災害か
Q
会社で2時間ほど残業をして、通常の経路で帰宅途中、駅前で同僚に出くわし、意気投合してなじみの居酒屋でビールを飲みながら1時間程度、雑談しました。
その後、 帰宅途中にバイクと接触し、けがをしました。こんな場合、通勤災害として認められる
でしょうか?
A
労災保険法では通勤とは、労働者が就業に関して、住居と就業場所との間を合理的 な経路及び方法により往復することと規定しています。
往復の経路を逸脱し、往復を 中断した場合には通勤とは認めない(第7条)、と定めています。
ただし、当該逸脱また は中断が、「日常生活上必要な行為で、最小限のもの」である場合には逸脱または中断
の間を除きこの限りではない、としています。
では、帰宅途中、合理的経路を中断して、居酒屋で同僚とビールを飲みながら1時 間程度雑談したことが、「日常生活上必要な行為」にあたるかどうか、また、最小限度のものなのかどうかが問題となります。
行政解釈では、被災労働者が居酒屋に立ち寄ってすごした行為は、通勤途中で行うような「ささいな行為」には該当せず、また、「日用品の購入、その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむをえない事由により行うための最小限度のもの」とは認めていません。
したがって、中断後の災害に該当し、通勤途上災害とは認められません。
くれぐれもご注意を。
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E 採用内定中の通勤事故 通勤災害に?
Q
3月にある会社に採用が内定し、4月から出社することになっていました。
出社に当たって3月に3日間、全員参加の社内研修が行なわれましたが、その最終日の帰宅途中に転倒してケガをしました。これは通勤災害として認められるでしょうか。
もちろん、研修の日の日当や通勤費は支給されることになっていました。
A
労災、通勤災害は「労働者」の業務上または通勤途上の負傷、疾病、障害または死亡に関する保険給付(労災保険法7条・保険給付の種類)とされています。
そこで採用内定者の雇用関係が成立している「労働者」かどうかが問題となります。
この場合、採用内定者の社内研修は全員参加が義務づけられ、日当、交通費も支給されているところから、入社前とはいえ、雇用関係が成立しているといえます。
通勤の経路が大きく逸脱しているとか、故意や過失による負傷ではなければ通勤災害の適用は受けることになります。
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F 腰痛の持病あったが保育中にぎっくり腰に、労災?
Q
私は以前から腰痛の持病がありました。
先日、保育中に子どもが後ろから飛びついてきて、それが原因で、腰痛がひどくなり、休んで治療をしなければならなくなりました。
また、出勤してもリハビリのために通院しなければなりません。事業主は持病があったのだから、労災は難しい、といっています。
業務上災害にはならないのでしょうか?
A
腰痛には転倒や転落などの災害にともなって発症する災害性腰痛と災害を原因としない非災害性腰痛があります。
腰痛が労災になるかどうかについても2つの要素について認定基準が示されています
(昭50・10・16 基発第750号、昭53・3・31 基発第187号)。
災害性腰痛とは、
@業務遂行中に通常の動作と異なる動作によって腰部にたいする急激な作用または予期しない突発的な出来事が作用したことが認められること。
A腰部に作用した力が腰痛を発症させ、または持病である腰痛をいちじるしく増悪させたと認めるにたるものであること、この2つの要件を満たしている医師の診断がある場合に業務上と認められるとしています。
したがって、あなたの腰痛が子どもが急に後ろから飛びついてきたことが原因で発症したものと考えられますから、災害性の腰痛に該当するものと思われます。
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G コンピューター作業での健康管理
Q
私はコンピューターソフトの会社に勤めていますが、コンピューター画面を見 ながらの作業が昼休みを除いてほとんど一日つづきます。一日が終わると肩や腕が 痛く、目がボーっとしています。このままつづけていたら身体のあちこちが悪くなら ないか心配です。
A
職場へのコンピューターの導入が急速にすすみ、長時間労働とあいまって、この
ようなVDT作業における健康障害も問題となってきました。
仕事でコンピュータ ―を使用している労働者の大部分が目の疲れ・痛み、首・肩のこり、腕・指の疲れ・痛み などの自覚症状を訴えています。
労働安全衛生法では、「事業者は労働者を就業させる作業場について、換気、採光、
照明、保湿、防湿などに必要な措置その他健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置を
講じなければならない(第32条)」とし、さらに「事業場における安全衛生の水準を向上
させるため、必要な措置を継続的、計画的に講じることにより、快適な職場環境をつくる
よう務めなければならない(同71条の2)」としています。
この観点からVDT作業によ る健康への影響をなくすために、厚生労働省は「VDT作業における労働衛生管理のため
のガイドライン」(H14.4.5、基発第0405001号)を出しています。
そのおもな内容は
- 作業環境の管理(室内の採光や照明は余りまぶしくせず、かつ 明暗の対象を著しくしないこと)
- 作業管理では、1日の作業時間はできるだけ短く、 1連続作業では1時間を超えないこと、その間に10から15分の休憩をとること
- 作業 環境を常に良好に保つために、点検、調整を行うこと、さらに
- 健康管理や労働衛生教育 の実施、高齢者、障害者への配慮事項などを定めています。
企業や職場の安全衛生委員 会の活動として徹底させましょう。
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H 過労やいじめによる心身症の労災扱いについて/a>
Q
私は今年の3月うつ病と診断されました。
というのはこの数年間、上司から過重労働を押し付けられ、それができないと深夜までの残業を強いられ、
体調が悪くても休むこともできず、休暇を申請しても認めてもらえない状態です。
まわりの人も例外ではなく、少しのミスでみんなの前で罵倒されたり、人格を傷つけられることもしばしばです。
そのために会社を休むようになり、ストレスと過重労働で心身を壊す人も続出しています。
このままでは過労死する人も出るのではないかと心配です。 このような心身症には労災は適用されないのですか。
A
近年、リストラ・人減らしで過重労働とサービス残業が横行し、企業の業績悪化で成績一辺倒の会社が増えています。
過労死や過労自殺が増えている要因の一つになっています。本来、労働契約は使用者の指揮命令に従って「労務を提供し、その対価を受ける」という契約であり、請負契約のように、仕事の完成に全責任を負うものではありません。
したがって、同僚とほぼ同等の仕事を行っている者に対して、「無能力」を理由になんらかの差別をしたり、残業を強制するのは不当です。
まずは、長時間労働を正すことが大切です。これまでの症例から、時間外労働が月45時間を超えると、発症との関連性が強まることが明らかになっています。
36協定を守らせる、時間外手当をきっちり請求する。
次に、年1回の健康診断を行わせ、異常が確認されれば2次健診をする。
産業医(地域産業保険センター)に相談し、その原因を明らかにすることも大切です。
厚生労働省は「心理的負荷による精神障害等に関わる業務上外の判断指針」(H11.9.14基発544号)の中で「業務上」の判断基準として、
- 業務以外の心理的負荷・固体側要因によらない
- 発病前おおむね6ヶ月間の業務による強い心理的負荷
- 対象疾病を発病
をあげ、これらの発病については労災適用の判断をしています。
また、「セクハラに関する精神障害等業務上外の認定」(H17.12.1基労補発第1201001号)で、判断指針に当たる概念、内容、留意点を示しています。
さらに、労働安全衛生法には、労働者の危険または健康障害を防止するための措置【同法第20条〜25条・安全配慮義務】が義務づけられており、これに違反した場合には罰則規定があり、同時に災害・疾病が生じた場合には労災保険給付以外に民亊上の損害賠償を請求することができます。
いずれにしても、職場のみんなと相談して、そんな人権侵害にも当たる暴言は止めさせることが必要です。ひとり一人が対応するのでなく、労働組合があれば組合が、なければ組合をつくって対応することが大切です。
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I 「過労死」および過労自殺について
Q
過労死と過労自殺について詳しく知りたいのですが
A
過労死とは、働きすぎによって健康を損なわれ、場合によっては死に至るという社会用語であり、法律用語や医学用語ではありません。
厚生労働省の認定基準に沿っていえば、{過労死}とは「日常業務に比較して特に過重な業務に就労したことによる明らかな過重負荷を発症前に受けたことによって発症した、脳・心臓疾患」であり、{「過労自殺」}とは「客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷」により精神障害を発症しての自殺です。
過労死の認定対象となる疾病は、くも膜下出血、脳梗塞などの脳血管疾患または心筋梗塞・狭心症などの虚血性心疾患とされています。過労死認定基準については、厚生労働省が「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」(平13・12・12 基発第1063号)をだしていますが、業務の過重性を評価する基準として、次の3段階をあげています。
@発症直前の24時間に極度の緊張・驚愕などの身体的・精神的負荷を引き起こす突発的、予測困難な異常事態や急激な作業環境の変化など、業務が過重となる出来事があったか。 A発症前1週間の業務の過重性(短期的な過重性)。
B発症前6ヶ月間の業務の過重性(長期的な疲労蓄積)。
をあげています。
また、06年度の法改正による「過重労働による労働者の健康障害防止」にたいして事業主が講ずべき措置として、時間外労働が月平均45時間を越える労働者にたいしては、その労働者の就労実態と健診結果を産業医などに提示して助言・指導を受ける。
また、時間外労働が月平均80時間または100時間を越える場合は産業医などの保険指導、健康診断を実地する、こととなっています。
また、過労自殺については、「心理的負荷による精神障害等にかかわる業務上の判断指針」(平11・9・14 基発第544号)があります。これによると、対象となる精神障害は症状性を含む器質性精神障害、精神分裂病または妄想性障害、うつ病、ストレス、人格(行動)障害などで、労災認定の条件としては、 @これらの精神障害に発症していること
A発症前6ヶ月間に精神障害を発症させるような強度の心理的負荷があったか
B業務以外の心理的負荷によって発症したことが認められないこと、などがあげられています。
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